「青の炎」のあらすじ
貴志祐介の同名小説「青の炎」の映画化版です。
監督は演劇界の巨匠、蜷川幸雄がつとめています。
映画としては「魔性の夏」以来の21年ぶりです。
ストーリーは殺人者になるまで追い詰められていく17歳の少年の、悲しくも切ない青春ドラマとなっています。
主人公に嵐の二宮和也、そのガールフレンド役に松浦亜弥、妹役に鈴木杏を迎えます。
映画俳優初挑戦のファッションデザイナー山本寛斎の好演も見所となっています。
主な出演者
監督:蜷川幸雄 出演者:二宮和也(櫛森秀一)、松浦亜弥(福原紀子)、鈴木杏(櫛森遥香)、秋吉久美子(櫛森友子)、中村梅雀(山本英司)、山本寛斎(曾根隆司)ほか
平和な生活が崩壊する
神奈川県湘南、高校2年生の櫛森秀一は名門高校に通う優等生です。
友人の大門と笈川、ガールフレンドの紀子、ロードレーサーが大好きな普通のどこにでもいる高校生です。
母親の友子、妹の遥香と3人で、あの男が戻ってくるまでは平和に暮らしていました。
あの男、曾根隆司は秀一にとって義父にあたる男です。
すでに友子とは離婚をしています。
曾根は酒癖が悪く、今までに何度も友子に暴力をふるうような男でした。
そんな男が、10日ほど前に突然現れたのです。
そして櫛森家に住み着くようになりました。
元々、秀一は曾根のことを心底憎んでおり、そんな曾根と1つ屋根の下で暮らすなんてまっぴらでした。
秀一は自宅のガレージを自分の部屋に改造して、そこで生活をするようになります。
その頃、世間では少年犯罪が増加傾向にあり、人々は怯えていました。
しかし秀一は冷静です。
そんな少年犯罪を犯す17歳のような、感情に任せて人をナイフで刺したりなどをすることはありません。
人を殺すにも、想像力が必要だと考えていました。
そして冷静に、曾根から母と妹を守る方法を考えていました。
秀一は、母の離婚調停で世話になった弁護士事務所を訪れました。
そして弁護士の加納に、曾根を追い出す手はないのかと相談をします。
しかし良い方法は見つからなく、法律は秀一たち家族を守ってくれませんでした。
そして秀一は、曽根を殺すことを決心します。
櫛森家の平和を再び取り戻すためには、曾根の存在を消すしかないのです。
そして入念な計画を立て始めました。
曽根殺害計画
秀一は行動に出ます。
まずシアナミド水溶液という抗酒薬を、インターネットの裏サイトで購入します。
松岡四郎という架空の人物になりすまして購入したのです。
そんなある日、秀一のバイト先であるコンビニに、石岡拓也という友人がやってきました。
石岡は家族を殴ったという噂が学校に広まり、それ以来不登校になっていました。
本当は家族をナイフで刺そうと思っていた石岡でしたが、それを思いとどまらせ、殴ることですまさせたのは秀一でした。
その時のナイフを、秀一は預かっています。
秀一はガールフレンドの紀子と、水族館でデートをしていました。
紀子は秀一に、授業中に描いていた落書きのことを質問します。
実は紀子の裸を想像してスケッチしていた秀一は、とっさに「ただまつげの長いライオンがあくびをしている絵だよ」と嘘を言ったのでした。
秀一がデートから帰ってくると、曽根が遥香ともめていました。
秀一は思わず曽根に金属バッドを振り上げましたが、間一髪友子がパートから帰ってきます。
そして友子が、なんとかその場を収めますが、秀一の怒りは収まりませんでした。
翌日から秀一は曽根を殺すための完全犯罪成立に向けて、一心不乱に計画を立てるのです。
通学路である海岸通をロードレーサーで疾走しタイムを計り、背広姿で松岡四郎に扮して私書箱に届いたシアナミド水溶液手に入れ、シアナミド水溶液を曾根の焼酎パックに注射器で注入をします。
さらには変圧器、コード、真空管を電気屋で購入しました。
鍼灸屋で針を、肉屋では鶏肉を購入します。
心臓に見立てた鶏肉に購入したものを繋ぎ、曽根を感電死させるリハーサルを行ったのです。
曾根殺害計画実行
いよいよ計画実行の朝、秀一は学校近くの人気のない場所に、ロードレーサーと美術の時間の課題である絵を、あらかじめ完成させておいたものを隠しました。
そして普段通り学校に登校して、美術の時間を待ちます。
秀一は外で絵を描くと言い、制作途中の絵を持って教室を出ました。
学校を抜け出し、人気のない場所に未完の絵をかくします。
ロードレーサーで家に向かいました。
家には曾根しかいません。
曾根はシアナミド水溶液を注入された焼酎を飲んで、眠っていました。
その曾根に血圧計を繋げ、コード、変圧器を接続、鍼を曾根の足と口の中の銀冠に装着しました。
そして1つ深呼吸をする秀一に、加圧スイッチを入れました。
そのまま曾根は感電死してしまいます。
秀一は急いで学校へ戻り、隠しておいた完成している絵を持って、教室に戻ったのでした。
夕方、秀一は刑事の山本から事情聴取を受けていました。
秀一のアリバイもあったことから、山本ら警察も曾根は心臓麻痺で死んだと断定し、完全犯罪が成立します。
そんなある日、突然石岡が秀一に金を揺すり始めました。
石岡は、秀一がロードレーサーを全力で走らせる姿を目撃していたと言うのです。
その後をつけ、殺害道具を発見していた石岡は、曾根を殺害したのが秀一だと気がついてしまうのです。
そして警察に通報しない代わりに金を要求しました。
秀一は再び殺害を決意します。
石岡に、コンビニで狂言強盗を提案します。
秀一はレジの中から金を渡し石岡は金を持って逃亡、秀一は犯人の顔は見ていないと証言する、と言う作戦でした。
その話に乗る石岡ですが、それは秀一の罠だったのです。
実際にはナイフを持ってもみ合う際に、秀一が隠し持っていたもう1つのナイフで石岡を刺し殺すと言うものでした。
そして石岡殺害も成功します。
捜査の手がそこまで
友人に殺されかけた人というのが、世間が秀一に向けた目でした。
しかし学校では様々な噂が飛び交い、秀一の居場所は無くなっていきます。
そして刑事の山本は、曾根殺しと石岡殺しの犯人は秀一だと疑っていました。
次第に追い詰められていく秀一の変化に、ガールフレンドの紀子は気がついていました。
そして辛い時には、自分の好きなものを思いつくままノートに書き出せばいいと言います。
そうすると不思議と心が落ち着くものだと言うのです。
秀一は、そんな紀子に人を殺してしまったことを打ち明け、紀子はそんな秀一の悲しみを包み込みようにキスをします。
山本は友子の元を訪ねると、友子は秀一が描いた曽根がライオンに食べられている絵について、山本に話します。
友子は秀一の中に潜む狂気に気がついていたのです。
山本は秀一が犯人だと確信して、警察に呼び出しました。
「そろそろ正直に話してくれ」という山本に秀一は了承し、友人たちにきちんと別れをしたいから明日話す、と訴え出ました。
山本は聞き入れ、明日再度取り調べをすることで秀一を帰しました。
翌朝、秀一は友子や遥香と、いつもと変わらない会話をします。
そして紀子に会いに行きました。
紀子は秀一の30年後の肖像画を描いていました。
紀子は「この地球上に殺されていい人なんて一人もいない、でも殺さないといけない事情を抱えた人もいるんだ」と言いました。
そして紀子は、秀一を庇うために秘密を守ることを約束して二人は別れました。
海岸通の道を、秀一はロードレーサーで走っています。
前方から大型トラックがやってきました。
秀一は静かに目を閉じ、トラックに突っ込みました。
映画ライターkokoの一言
いい作品でした。
二宮和也演じる秀一が蜷川幸雄の世界観になんとも溶け込んでいる感じがして、没入感があります。
身近にあるような題材、もちろん殺人などはあろうはずもないのですが、人間の誰しも持つような感情、それを完全犯罪という形で実行しようとする少年。
自分は他の17歳とは違うんだ、と言いながらも未熟な思考故の無謀な行い、完全犯罪などできるはずも無いのに、それが分からない不安定さが、この作品の持ち味のようでした。
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