「少年は残酷な弓を射る」のあらすじ
ある日突然起きた凶行、自らの通う学校に侵入した少年は弓を取り出し、学友たちを無差別に襲い始めます。
数々の死体を後に警察に捕らえられ連行されていく少年、そこに連絡を受けてかけつけた少年の母親が対峙します。
なぜ息子がこのような犯行に及んだのか、憔悴しながら自宅に帰った彼女の目に映るのは、息子に殺された夫と娘の姿でした。
大量殺人を行った息子と、その母親の過去と現在を少しづつ体感していくような映画となっています。
主な出演者
監督:リン・ラムジー 出演:ティルダ・スウィントン(エヴァ)、ジョン・C・ライリー(フランクリン)、エズラ・ミラー(ケヴィン)、ジャスパー・ニューウェル(少年時代のケヴィン)ほか
望まぬ妊娠をしたエヴァ、懐かない子供
ある憔悴して弱りはてた女性エヴァが、一人町の中で暮らしているシーンから始まります。
エヴァが暮らしている家にはペンキがかけられ、町を歩けば人々から中傷や暴力を受けています。
しかしエヴァは反抗せずに、そして逃げもせずにされるがまま生きていました。
町中で出会った青年は、いつも通り呆然と歩くエヴァに近づき、「あなたのせいじゃない」と話しかけます。
エヴァは元々は活発で、自由奔放な映画ライターでした。
華やかで充実した生活を送る中で、恋人フランクリンとの間に子供が生まれます。
望まぬ妊娠でしたが、子供はケヴィンと名付けられ、二人の間で大切に育てられます。
しかしケヴィンはフランクリンが抱くとおとなしくなるのに、エヴァが抱きあげると癇癪を起こして泣きわめきました。
エヴァはまったく懐かない赤ん坊のケヴィンに徐々に疲弊し、赤ん坊の泣き声が聞こえないように車通りの多い場所に行き、車の走行音で泣き声をかき消して、ようやくひと時の安息を得るのでした。
母親エヴァ、息子ケヴィンの確執と一時の甘え
ケヴィンは成長してからも、何故かエヴァにだけは反抗的な態度を取り続けました。
フランクリンに対しては普通の子供のように懐き、愛情をいっぱいに受けても嫌がりませんでしたが、誰もいないところでは、ケヴィンは隠れて母親であるエヴァに嫌がらせを始めるようになっていました。
しかしママと呼ばないケヴィンが、一度だけエヴァの事をママと呼んだことがあります。
それはエヴァがケヴィンの嫌がらせに耐え切れず、初めてケヴィンに怒り怪我をさせてしまった時なのですが、その時だけはケヴィンは素直にエヴァに甘えてきました。
そんな態度も一時的なもので、エヴァは何度かフランクリンに訴えるものの、ケヴィンは父親の前では可愛らしく振舞っていたので全く取り合ってくれません。
月日が経つごとにエヴァの不信感、不安感が高まっていきましたが、ある日夫婦の間に第二子である女の子セリアが生まれました。
家族は一見すると仲睦まじい幸福な4人家族でしたが、新しい家族が増えた後も、ケヴィンのエヴァに対する嫌がらせはエスカレートしていくばかりでした。
ケヴィンはエヴァに自慰行為を見られてもニヤつくだけで、そんな息子の態度に徐々にエヴァは孤立していく事になります。
弓を習う息子、娘セリアの失明と夫婦の離婚
妹が生まれた後、ケヴィンは妹の事を遊び道具あるいは奴隷のように扱い、妹として愛そうとはしませんでした。
もちろんこの事をフランクリンは気づいておらず、エヴァだけが娘を守るために神経をすり減らしていきます。
そしてその頃からケヴィンはフランクリンにねだり、弓の練習を始めました。
父親から丁寧な手ほどきを受けるケヴィンは無邪気にふるまい、めきめきと腕を上げていきますが、母親だけが見ていると分かると、すぐに態度を変えて挑発してきました。
そんなある日、飼っていたペットがいなくなる事件が起こります。
幼いセリアは、慌ててペットを探し回りました。
しかし探索の中で排水溝の溶剤を目に入れてしまい、セリアは片目を失うことになってしまいます。
取り乱したエヴァはケヴィンが何かをしたと訴えますが、フランクリンは取り合わずにカウンセリングを受ける事を妻に勧めます。
そんな日々が続き、耐え切れなくなったエヴァはフランクリンとの離婚を決意しました。
無差別大量殺人を起こした息子と生き残りの母親
両親の離婚を知ったケヴィンは、ある計画を立て始めます。
ケヴィンが16歳になった誕生日、ケヴィンは父親に習った弓を持ち出し、自分の通う学校を襲撃しました。
目につく生徒を無差別に弓で射っていくケヴィンは、逃げ惑う生徒を的確に冷めた目で射抜き続けます。
そして学校で事件があったと知らせを受けて慌てて駆け付けたエヴァの目に映ったのは、警察に連行されていく笑顔の息子でした。
呆然としたまま自宅に戻ったエヴァは、自宅で弓に打たれて殺されているフランクリンとセリアの姿を見つけます。
事件発生から2年、場面は冒頭の憔悴しきったエヴァが、ケヴィンの面会に訪れる場面へと移ります。
正面から向き合った二人、エヴァはケビンに「なぜ?」と話しかけます。
ケヴィンは「わかっているつもりだった。でも、今は違う」と答えました。
その言葉を聞いて、初めて自らケヴィンを抱きしめるエヴァ、そしてその抱擁を素直に受け入れるケヴィン、映画はそこで閉じられました。
映画ライターhatiの一言
主人公であるケヴィン役の俳優が美少年であったことで、より迫力を増していた映画ですが、観る人によっていくつも解釈が生まれるストーリーだったと思います。
特に最後のシーンは、少年の真実を見続けた母親、見続けながら何もできなかった母親のシーンとして、ほど良い虚無感と余韻を味わえるようになっていました。
コメント